アーリーフェーズのエンジニア採用で学んだこと
recruitこの記事は「エンジニア採用 Advent Calendar 2023」9日目の記事です。
はじめに
アーリーフェーズで、正社員エンジニアの採用活動をしてた時の話を書く。 便宜上、アーリーフェーズとしているけど、ステージとしてはプレシリーズ A、社員一桁レベルのところ。
自分は昔の仕事でも、採用活動に関わっていたことはあった。
しかし、ヒトもカネも知名度もないフェーズで、1 から採用活動をするのは始めてで、なかなか厳しかった。
全然リソースがない。採用だけでなくプロダクトの開発に 1 日中取られるし、他部門の仕事もやらされることがあるし、まともな採用戦略を組めない。
ただ、一緒に働けるエンジニアを探したかったので、タスクを終えてから、夜なべをしてエンジニア一人一人の経歴書とアウトプットを読み、スカウトメールを書いた。
何人かには仕事の魅力を伝えることに成功して、会社を第一希望までに考えてくれた。
会社の経営が破綻したので、最後まで人を迎え入れることはなかったけど、数少ない成果にはなった。
この記事は、当時の学びをまとめたもの。
必要なければ採用しない
ビジネスが軌道に乗るまで、採用活動をするべきじゃなかった。
最近はバーンマルチプル(バーンを ARR で割ったもの)もシビアに見られてきているという。ウチはイケてて資金調達を予定してる…みたいなムーブはできなくなるはず。
人が必要になるタイミングについては、 REWORK(邦題: 小さなチーム、大きな仕事)の受け売りだけど「まずは自分自身から」と「限界で(苦しみを消すために)人を雇う」だと思う。
自分が採用活動した当時は、期に最低 2 人、うちCTO 1 人という目標があった。エンジニアってそんなにいらないし、CTO なんかもっといらなかった。数ヶ月後に債務超過になってるんだから、むしろそこにリソースを割いてる場合じゃない。
自分の限界を知る活動自体は、やって価値があったとは思う。
経営破綻の 1 ヶ月前、採用を一旦止めて、手を動かすことに集中した。ハードワークだったけど、意外と1人でやりきれた。今は採用のタイミングでない、他の事に投資した方がいい、という感覚ができた。
業務委託とか、リファラルでかき集める作戦は王道なんだけど、なまじ成功体験を得ていたらその感覚がわからず、リソース配分が無茶苦茶になっていたかも。
それはさておき、採用しない意思決定を考えるためには、キャッシュフローを自分ごとのように把握するスキルが必須。
でも、財務状況をクリアにしている会社は、ほぼないんじゃないかと思う。
初期メンバーが退職とか、なんか変な電話が来てるとか、赤い封筒が届くとか、給与振込が「システム障害」で遅れるとか、予兆はいくらでもあるから、日々アンテナを張る。
優秀じゃなくて必要な人を探す
これも REWORK からの受け売りだけど、優秀じゃなくて必要な人を探すべきだった。
人を集めるべく、優秀な知人とリファラル面談をした時に「自分に何を期待して誘ったの?」という質問にうまく答えられなかった。選考中の方から「なぜ自分に入ってきて欲しいのかわからない」というフィードバックをいただいたこともある。
優秀な人はどこにでもいて、身の回りにもいるし、頼んでなくてもエージェントから紹介が来る。でも本当に必要な人というのは、なかなか見つからない。
そもそも必要な人が何かをわかってないから、スキルセットで判断してしまう。
必要な人が誰かを考える時に、今のチームや組織でフォローできてない課題を探してみることにした。
アジャイルやキラキラなワークショップやプラクティスをやりたがるけど、時間だけかかって役立ってない。How だけ真似していて目の前の問題をあまり解決できてない。振り返りも「頑張れた」みたいな解像度の低い Keep が出てくる。プロジェクトがステークホルダーの御用聞き。などなど…。
すると、ハイスキルなプレーヤーが足りないと言うよりは、仕事の進め方がやってる感ばかりで無駄だらけなのがわかってきた。
なんならエンジニアが 1 人増えたところでワークしなくて、仕事の進め方に疑問を持てる人とか、課題感のマッチする人が欲しくなる。
経験技術とか出身企業へのこだわりを捨てたら、少し市場が広がった。肩書きはないけど解決した経験を積んできた人、キャリアプランとして経験を積みたい人とか、マネジメント層に行きたい人。
クライアントにベッタリなバーティカル SaaS なら、自社出身だけでなく受託出身も候補に挙げられるようになる。
※課題は自分だけで決めるものではないので、他のメンバーと振り返る文化を早めに作っておく。
課題からアトラクトする
候補者とのタッチポイントを増やそうと、採用ピッチ資料とか採用媒体上に載せるストーリーとか、ブログを書こうという動きはあったけど、そういうのはやらなかった。
「興味のない会社から向けられる好意ほど、気持ちの悪いものってないでしょう」というやつなので、まず興味を惹きつけるところから始めないといけない。
母集団ができていれば、あとは候補者への EVP を練って、「私たちの会社にはこう言う課題があって、あなたのやりたいことができます。私たちもあなたを必要としています」という営業を一人一人にかけていく方が、非効率で泥臭いけどマシなやり方だと思った。
自分の経験が評価されたり、必要とされていることが感じられないベンチャーに、候補者は耳を傾けてくれない。
それに、自分たちも来て欲しい人だと思えないと、惹きつけたところで話も弾まないし。
このフェーズのエンジニア採用では辛いことがあって、「技術」で売り込むのが難しい。
プロダクト次第だけど、ビジネスを軌道に乗せるのが最優先だから、最初は MBaaS を SPA に乗せるぐらいで良い。何か難しい課題があれば外部に委託すればいいし、あまり高度なスキルが求められない。
あと、技術でレバレッジをかける作戦だと、ピボットが割と危ないと思っている。その技術が新しいプロダクトに向かないケースもあるし、なんならエンジニアがいらなくなって営業に回される可能性だってある。
もちろん課題の根底に技術があって、それで売り込めるならそうするしかないけど…採用ありきで技術選定を見直すのは、とてもじゃないが無理だった。
正直に伝える
一番の教訓は、候補者と真摯に向き合うべきだった、ということ。
真摯に向き合うというのは、夜時間のオフィスを見せる、とかそういう話じゃない。
今ある事実は限りなくローコンテキストにしろ、という話。
一時期、面接で以下のようなことを当たり前のように言ってた。
- スタートアップだからなんでもできる
- 曖昧な状況で、変化を楽しめる人がいい
- 課題が多すぎるので、自ら課題を探して動いてほしい
- 求めなくても自走できる人が欲しい
- ミッション・ビジョンに共感してくれる人を探してる
その後、自分が転職活動する時、同じようなフェーズの会社の面接で、上記と一語一句変わらないことを言われたことがあり、その日は吐き気が止まらなかった。
「変化」って何?給料日に給料が入らないのを「変化」として楽しむのか?
開発の手が足りてないのは課題なのか?何か無駄なことをやってないのか?
アーリースタートアップの面接は、曖昧と見栄だけで作れる。
ただし蓋を開けると零細企業。コンテキストをぼかさず、真実をちゃんと伝えてあげる。
- 強みを活かしたまともな人員配置ができてない
- 計画を立てて振り返ったり修正したりできない
- なんの課題が目標の達成を阻んでいるのか把握できてない
- マネジメントできる人がいない
- ビジョンに共感してくれ。明日変わってるかもしれないけど
これを反省している理由は、リアリティショックを防ぐため、というのももちろんあるんだけど。
もう一つは、現在を曖昧にすると不幸しかないため。
抽象度の高い課題ベースで人を惹きつけると、候補者も漠然としすぎた目標を抱えていることがある。
例えば、「なんでもやれる」とか「社会をよくする」「社会貢献」に喜びを感じる人。
そういった人でさえ、曖昧な将来は覚悟しているかもしれないけど、スタートアップがきついのは将来ではなくて現在。このフェーズの経営者は、自身も何をするのがいいかわかってないので、昨日ドヤ顔で言ってたことを、今日は普通に忘れていることがたくさんある。
もしくは経営層がプレーヤー上がりの人たちで人を動かすスキルが低く、「スタートアップだから」を枕詞にパワーマネジメントしがちとか。
頭の痛くなるような現在に関して、双方が期待値をすり合わせないと、その人の現在だけでなく将来も幻滅させてしまいそう。
当時、自社を第一志望にしてくれた方には、都合のいいことばかり言って申し訳ない。
終わり
「このフェーズで」という言葉を免罪符にしてはいけない。